山間の寒暖差がみずみずしい野菜や果実を育ててくれる奥河内では、採れたての美味しさを「地産地消」として味わうことができます。食の地産地消だけではなく、さらにスケールをひろげると、私たちの背にある山々で伐りだされた木を使う「木の地産地消」も注目されはじめ、子どもたちが遊ぶ環境や住空間に活かされています。今回は、大阪府森林組合の製材・加工所「ウッドベースかわちながの」の菊川昌樹所長にお会いし、大阪の地産木材「おおさか河内材」や、この地に根付く林業のお話しをおうかがいしました。
編集部:施設がある南河内グリーンロードは山間の美しいところですね。「おおさか河内材」は、このあたりで生育した木なのでしょうか?
菊川氏:はい、主に河内長野市・千早赤阪村を中心とする南河内で生育した木を、千早赤阪村にある木材市場に山主さんや林業関係者の方々が出されます。わたくしどももその市場で「この木はいいな」と思う良質な木を買い付けて、しっかり乾燥させて丁寧に製材・加工したものを「おおさか河内材」として生産しています。
編集部:河内長野や千早赤阪村にとって、林業も地場産業ですよね。
菊川氏:そうですね、もともとここには、林業として300年ほどの歴史があります。山の背は、奈良県の吉野という立地から、木材は同格。1ヘクタールあたり1万本を植える密植で、針葉樹である杉・ヒノキを育てています。同じ広さでもっと少なく植えたら光も行き届いて早く太くなるのですが、密植で針葉樹を育てると年輪のつまった強い木になります。ただし、すごく時間がかかってしまう。山主さんたちにとっては、曾々御爺さんが植えられた樹齢100才の木が、やっと伐られて市場にいくという感覚です。柱に使うとしても、60年はかかりますので。
編集部:一代のうちに伐ることはできないかもしれないですね。山主さんが山を維持するのに経費がかかりますよね?
菊川氏:そうなんです、密植だからといって放っておいていいわけではありません。杉・ヒノキ自体は光が比較的少なくても育つのですが、木の下は暗くて草がはえず、岩と砂が露出しやすい。そこに雨が降ってきたら土砂崩れという最悪の事態もおこりえます。そんなこともふまえて「この木」と思った木のために、10~15年で曲がってしまった木は残念ですが伐ってしまいます。その間伐材は、昔なら密度の高さから酒樽や稲足、工事現場の足場としても需要があったのですが、時代の流れでどちらも使われなくなってしまいました。いわゆる山の維持費にあてていた「収入間伐」というものがなくなり、どんどん人の手が入らなくなっていき、山を維持することが難しくなってきました。でも木を育てることや山にとっては、間伐はすごく大切なんです。
編集部:大阪府森林組合では、山へ入って間伐をしたり、「おおさか河内材」の生産やそれを使って建築事業部が住空間をつくられたり、山を循環させる活動もされていますよね?
菊川氏:はい、当組合では国からの指導を受けながら山主さんに代わって間伐を行い、収入間伐にできるところは、山主さんに少しでも還元できるようにお手伝いをしています。また、これからは製材所でも「モノづくり」をしていこうということで、平成9年に「ウッドベースかわちながの」ができ、平成25年には地産ブランドとして「おおさか河内材」が公的な認証を受けられる制度が発足しました。当組合の建築事業部だけではなく、大阪府内の建築士や工務店のみなさまにも多く使っていただいています。
編集部:さきほど見せていただいたパーツは、無印良品の木育広場で使われると聞きましたが、大阪の子どもたちが大阪の木で遊ぶってとってもすてきですよね。
菊川氏:はい、最近は保育園や幼稚園の内装に使いたいからとオーダーもいただいて、子どもたちが「おおさか河内材」に触れられる機会が増えて、すごくうれしいです。
「無印良品グランフロント大阪 提供:良品計画」
編集部:大阪に住む方々にとって「おおさか河内材」は、まさに木の地産地消ですね。
菊川氏:そうですね、また環境負荷を数値化する「ウッドマイルズ」にも配慮できる環境下でもあります。「産地から利用場所まで木材を輸送する際に、どれだけ二酸化炭素を排出してきたのか?」と考えた時、大阪には林業地があって、その近くに市場と製材所があることはとても有利。「おおさか河内材」を地元の方に使っていただくことで、エコロジーな観点も含めていろんなことへ気づかいが行き届いていくと、山の木がどんどん利用されて、山が元気になっていきます。
編集部:使うことで、山の健全化に一翼担えそうですね。
菊川氏:はい。山のためには確実に(笑)
編集部:最後になりましたが、「おおさか河内材」の「ここがええねん!」を教えてください。
菊川氏:年輪が密なので、杉・ヒノキともに建築材として強い強度を備えています。あとはピンクかかったなんともいえない色合いですね。とくに杉は中心部が赤くて、外側が白く、そのグラデーションがとてもキレイです。ヒノキは他産地では黄色っぽいんですが、「おおさか河内材」は全体的に白くて、芯にピンクがかったやさしい風合いがでています。そこには、急いで育てず「良いものをゆっくりに育てるんや」という意識で300年歩んできた林業地だからこその品質があると思っています。