【奥河内のチカラ】第5回 「みんなの学校」大空小学校 初代校長 木村泰子先生

 特別支援対象となる障がいを抱える子や、感情のコントロールができずキレてしまう子、どんな子もみんな同じ教室にいて、それを見守る先生・保護者・地域の方がともに学びあう姿を映しだす「みんなの学校」。2014年にドキュメンタリー映画として公開されるや、年間675件の自主上映会が全国各地で立ち上がり、そこでしか観ることのできない「観たい映画」としての希少価値と、学校と地域が一体化していこうとするテーマ性に大きな反響を呼んでいます。この度、河内長野でも来る12/10(土)に自主上映会が開催される運びとなりました。フィルムのなかで、教育現場で奮闘する初代校長・木村泰子先生は河内長野市在住。当日はトークセッションにもご登場いただきます。今回の「奥河内のチカラ」では、先生の想い出ふかい「西代神社」に訪れながら、「みんなの学校」と大空小学校についてお話しをおうかがいしました。

 

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編集部:先生が河内長野市在住とおうかがいした時は、上映会スタッフもうれしくて驚きでした。

 

木村:はい、長女が1年生の時に河内長野にきて、ここで子育てをしました。キレイな加賀田川で魚を捕まえたり、滝畑におでかけしたり。退職した今もずっと暮らしています。西代神社は、家族みんなで孫のお宮参りに訪れた想い出の場所なんです。この素朴な感じが大好きで。

 

編集部:その西代神社のほど近く、ラブリーホールにて上映会を開催する運びとなりました。

 

木村:うれしいですね、お世話になった河内長野で映画を観てもらって話せるということは。

 

編集部:実は上映会を企画するにあたり、近隣の上映会で一足先に「みんなの学校」を観させていただきました。けっこう遠くから足を運ばれている方もいらっしゃいますよね。そしていろんな悩みを抱えられている方も。大空小にカメラが入るきっかけはなんだったんでしょうか?

 

木村:大空は、児童数が1000人を超える大きな小学校から、2006年に分離独立した新しい学校です。開校に至るまでは20年間、地域からの強い反対があったんですが、ただひとつ「地域にいい学校をつくろうよ」という熱意だけを受け入れてもらえて、開校できたんです。そして6年ほど経ったある日、とある女性が訪ねてこられた。この方は、「障がいを抱える児童が、なぜみんなと同じ教室で学ぶことができないのか」をテーマに取材されていたテレビ局のディレクターで、「大空小学校では、誰ひとり分けることなく、同じ教室でともに学んでいることが、とても珍しい」と。そこから1年間、大空にカメラが入りました。

 

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編集部:同じ教室で学ぶということは、特別支援学級がないということでしょうか?

 

木村:みんな同じ教室とか、分けるとか分けへんとかは、そんなん全然考えてないんですよ。「すべての子どもの学習権を保障する」、これが公立小学校の目的。「子どもが安心して学べているか、これだけを考えていこな」ということで、学校づくりをした。授業がしんどい子や、グレーゾーンといわれる子は、教室を飛び出すし、人を殴ってしまうこともある。一人の先生が、一人で対応していたら、授業が遅れて困ってしまう、周りの子は「あの子は先生に怒られる悪い子」となる。だからといってレッテルを貼って「この子は違うお部屋へ」と先生が邪魔にすると、ほかの子も親も邪魔にするんです。でも一人を出しても、もう一人が出てくる。大空ではまず、一人が飛び出すと、「この子が悪いか、自分の授業が悪いか」と、こう考えます。当の子ども自身は校長室でクールダウンして、自分でバランスをとっている、自分の発達をよくわかっているんですよね。まわりに決められるもんではない。そうやって柔軟な学びの場がつくれるかどうかなんですよ。学校って。

 

編集部:最近の教育現場では、人手不足感を感じますが、大空ではたくさんの方が関わっていますよね。

 

木村:現状として人手不足です。でもそれを理由にしたら、人手不足じゃなかったらできる?ということになる。もし教室を飛び出して、図書館に駆け込んでも、図書館に地域の方がいてくれると、

「今、図書館におるから」、「了解」ってそれだけ。

読み聞かせをしてくれるその方と、その子はそこでコミュニケーションをとっているんですよね。

 

編集部:子どもを受け止めてくれる地域の方は、映画のなかにもいらっしゃいましたね。地域のボランティアさんなんでしょうか?

 

木村:ボランティアという形で学校に入っているわけではないんです。そもそもPTAは最初からナシ、授業参観もなくしたんです。授業は保護者や地域へと開いて、常にオープンなんです。来れる時に来れる人が、授業を参観するのではなく、入ってきて子どもにそっとかかわってもらう。教員が一人で教えているなかでは、「逆立ちしてもみんなをみることは無理やな」というところに至ったので、授業は教員がどんどん開こう! 授業にどんどん入ってきてよ! 子どもにかかわってよ!って。大空は教員が自らの授業を開くことが評価なんです。

 

編集部:ということは、出入り自由ということですか?

 

木村:もちろん! 365日の営業中=子どもがいる時です。名札をぶらさげているだけで、学校に入れます。でも教室の後ろに立っているだけでは怒られる。「わかってる?あんた安心して授業を受けてる?」って一緒にかかわりをもつ。大空ではそれが当たり前やから、暇そうにしているおばちゃんや母ちゃんを、子どもがひっぱって「教えて、教えて」「わたしもここ、わからへんねん」となるんです。

 

編集部:先生・保護者・地域の方、それぞれの学校へのかかわり方があるんでしょうか?

 

木村:PTAがない大空で、最初に打ち出したのが

「学校はあるものではない、つくるものや」というビジョンでした。

「だれがつくる?」ってなったら、一番は学びの主体=子ども。

常に、子どもが感じるような関わりをもってやらんとあかん。

次に保護者。保護者は自分の子どもが学んでいる学校を自分でつくる。これ当たり前なんですよ。だからといって学校でボランティアするという世界じゃない。

当たり前だから、「フリーでできることをできる人が無理なくたのしく!」。「この時間にみんなで来て、これやろう」じゃなくて、「この階段が汚いから掃除したろ」とか自分から自分らしく。

そして、「子どもがちゃんと学べているかどうか」、これが教員の仕事であり、この事実が私たちの結果です。

そして、その責任が校長にあります。すべての子が安心して学校に通えているかどうかは、自分の体で感じていないと責任の取りようがない。だから私は周りから、「よう動く校長や」といわれましたが、動かないとわからないじゃないですか。

そして、それぞれが対等な関係であり、やってあげたの「ギブ&テイク」ではなく、やってよかったの「ウィン&ウィン」であることです。

 

編集部:参観者ではなく、参加者ですね。

 

木村:そう!ともに学びあう。学校はみんなの学びの場やから、大人になったわたしら教師も、教える人間から学ぶ人間にかわったんです。だから一緒に学ぼう、何をどう学ぼうか。学ぼうとする大人がいれば、子どもは無条件で学ぶから。

大空には校則やマニュアルなんてない、あるのは「自分がされていやなことは人にしない・言わない」というたったひとつの約束だけ。そして、それが守られへんかった時は、校長室にきて自分で自分のために「やり直し」をする。自分で「やり直し」できへん子は、全校道徳でまわりの人間がずっと透明人間のようにかかわる。これが映画にでてくるマサキやね。「やり直し」は、たとえ1年かかっても自分からくること。人が介入した解決はカンタンやけど、本人の学びにはなれへんからね。

だからいじめは毎日あっても毎日解決している、いわゆるモンスターペアレンツと呼ばれる保護者が大空にいないのはそこなんです。子どもは納得して家に帰るから。そんな学びの場をつくるには、学校にまぜこぜの人が、1人でも多いほうがいいんですよ。

 

編集部:映画を見た後、河内長野で何ができるか?を考えました。取り組んでいけることはありますか?

 

木村:まず、先生は自分の授業をオープンにすること、そしてまぜこぜの学級をつくること。この2つはすぐにできます。これだけ多様化された社会のなか、子どもたちは小学校6年間で、多様なものを獲得していかへんかったら、将来もっと多様化した社会で生きて働いていけるのか。それに対応できる力を獲得させるには、多様性をおびた学びの場でなかったらあかんわけです。

 

編集部:当日のトークセッションを含め、河内長野で何かが変わる一日となればいいですね。

 

木村:そうですね。二人の娘も一年生からここ河内長野で教育を受け、孫も小学校に通い出しています。ほんとうに河内長野に変わってほしい!と思う部分があります。当日をわたしもたのしみにしています。

 

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木村泰子先生

Profile

2006年に大阪市住吉区で開校した大空小学校の初代校長として、第一ステージ(~2015年)を築いた後、45年間の教職歴をもって退職。2014年に公開されたドキュメンタリー映画「みんなの学校」が話題となり、全国の自主上映会から講演に招かれる。著書は、小学館発行「『みんなの学校』が教えてくれたこと」、「『みんなの学校』流自ら学ぶ子の育て方」、水王舎発行「21世紀を生きる力」(木村泰子・出口汪著)

 

みんなの学校上映会チラシ_表

 

「みんなの学校」

Information

12/10土 ラブリーホールにて上映会開催

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