【奥河内のチカラ】第6回 河内長野市教育委員会 教育長 和田 栄 先生

日本遺産の認定申請に取り組む河内長野市。歴史的な文化遺産として国宝や重要文化財が たくさん残るこのまちで、子どもたちが学ぶ「ふるさと学」の授業をご存知でしょうか。「社会」の一コマではなく、文部科学省の認定を受けた特別授業として子どもに、自分が育つまちの知識と原風景をしっかりと伝えていく。今回は子育て世代の編集部スタッフが、「ふるさと学」を発案した和田教育長に、その取り組みと想いについてお話をおうかがいしました。

 

ふるさと学

 

編集部:昨年に続き、日本遺産への登録申請が話題になっているなかで、今回インフォ春号 では観心寺と金剛寺を特集したんです。ちょうど時期的にも観心寺では「御開帳」、金剛寺では「御影供」があるので、地域の「春ごと」に地域の人が行くっていいんじゃないか な、って。それぞれのご住職との取材のなかで、小学生がお寺にやってきて、歴史や遺産について勉強して発表の場を設けているとのお話があり、その発端は和田先生だとおうかがいしまして。

 

教育長:そうですか、それは「ふるさと学」の授業やね。

 

編集部:観心寺へは川上小学校、金剛寺へは天野小学校の生徒たちがお寺に足を運んで「文化財子ども解説員」になっていると。よく「河内長野には何もない」とおっしゃる方にも出会いますが、子どもたちが子どものうちに国宝や文化財があることに気づくっていいな、て。 いつからの取り組みなんでしょうか?

 

教育長:「ふるさと学」の授業がスタートしたのは6年前、河内長野ふるさと学テキスト「か わちながの物語」の初版が刷られた平成23年の3月からやね。キッカケというのは、わたしの経歴にも関係するんやけど、目の前にでてくる課題を一生懸命にたのしんでやっていた教育現場を経て、ちょうど私が教育長になったある日、天見の八幡さんから「湯立て神事」の招待状が届いた。東中学校に在籍していたこともあって、天見は学校区やのにこんな行事があることすら私は知らなかったし、子どもたちも知らないし。おうかがいしてみると、村の人がいっぱい集まってきて、釜にお湯を炊いてね、塩とお酒とお米入れて、笹の葉で「無病息災」ってやっている。「村がずっと守り続けてきたんや、おそらく800年ほどは続いているんかな、すごいな」て、ただただ感心で。そうしたら村の人が「この釜ね、後醍醐天皇からもらった」というねん。

 

編集部:ええ!

 

教育長:て、なるやろ(笑) わたしも「この釜ですか?」と聞いたら、「いやいやこれはレプリカや。ほんまもんは大阪市の美術館にあるねん」と。後醍醐天皇て 1300 年代、そんなに続いている行事なんかと思っていた時に、周りに子どもがおれへんことに気づいた。村の人だけ、それも高齢化している。地域にずっと続く大切な行事を誰も教えてこなかったのか、これはやっぱり戦後の教育のなかで「ふるさと」への意識が欠けていたんやと。そこから帰ってきてすぐ、「河内長野の教科書つくってくれ」と話をした。各学校から教員を集めて1年かけて、子どもたちに教えたい、誇りに思う歴史や文化を集めて教科書「かわちながの物語」をつくった。

 

かわちながの物語

 

編集部:「かわちながの物語」は、ネタが豊富そうですね。何年生がどの授業で使うのでしょうか?

 

教育長:もともと授業っていうのは、国のほうから時間がきちっと決められていてね。一般的に郷土学習は、「社会」の授業で 3.4 年生が学ぶ。けど河内長野市の「ふるさと学」はちょっと違ってね。「河内長野ではこの教科書でふるさとを学びたいから」と、文部科学省に許可を願ってOKがでて、小学5.6年と中1までの計18時間を使って、担任が「ふるさと学」という河内長野市独自の授業をすることになった。これは全国的に、とても珍しい!

 

編集部:それが初版は刷られた平成23年度ですか?

 

教育長:そう、授業がスタートしたのはね。平成18年12月に教育基本法が 60 年ぶりに改正され、小中学校での教育目標や狙いを定めた教育のバイブルといわれる「基本法」に、「郷土を愛する態度を育てていこう」という文言が新たに入り込んだ。これから世界に羽ばたく子どもを育てていくのに、何が大事って、ふるさとや地域を感じて、地面にしっかり根の生えた子どもが世界で活躍していくことを目標にしよう!ていう流れがでてきた。うちの流れと合致した瞬間やった。そこからどんど ん膨らんできて、天皇陛下がこのまちに 3 年間お住まいやったとか、楠木正成が観心寺で 学んでいたとか、三日市駅にマッタケ電車が走っていたとか(笑) 雑学がいっぱいこの教科書に盛り込まれていった。

 

人物

 

編集部:子育てママが集まるインフォのスタッフでも、市外からお嫁にきて「神社仏閣、文化財の数的にも河内長野てすごいやん」て、気づくところがあります。この教科書って親が読んでも面白いですよね。

 

教育長:ほんまに、まずはお母ちゃんが知ってくれるとうれしいね。お母ちゃんらが郷土の良さをしってくれると、子どもは自然に学ぶしね。

 

編集部:「ふるさと学」では教科書からの学びのほかに、どんな取り組みがありますか?

 

教育長:川上小や天野小の「文化財子ども解説員」やら、ほかの小学校でも独自の地域への学びは深めていっている。とくに海外の子どもたちとのテレビ会議で、「自分の住んでいる ところはこんなとこ」って紹介しあうねんけど、その時の子どもたちの誇らしげな顔つき! 今の子どもらに一番欠けているのは、自分に自信を持つことやからね。親や地域外の人が知らんことを、自分の知識としてもっていると自尊心が育まれていく。ロータリークラブに協 力してもらって実施している「ふるさと作文コンクール」でも、長野が好きや、長野を誇らしく思う、そういう気持ちと言葉がいっぱい書いてあるねん。それをみるたびに、「ふるさと学」の良さを感じてくる。

 

編集部:自分のふるさとを感じると落ち着きますよね。

 

教育長:ほんとに落ち着くね、心が。今、河内長野市民意識調査をしてみると、「河内長野 市に愛着と誇りを感じているか」という質問に、平均すると約 4 割の方が「感じている」と 答えている。そのなかでも、さらに10ポイントも上回っている年代層があるねんよ。

 

編集部:10ポイントって高いですよね。どこの年代層ですか?

 

教育長:ふるさと学が始まり、ふるさとを学んだ18・19歳になる年代、うれしい結果やね。ふるさとを知ることや、地域の人たちとつながることで、子どもたちがいろんな価値観にふれていくことが非常に大事。全国で不登校は増えているんやけど、河内長野では、全小学校で減っている。これは、子どもらが学校の先生以外のいろんな人と勉強しているからや。心の部分でも、いろんな力がついてきているよ。

 

編集部:最後になりましたが、先生の想い出の河内長野はどこでしょうか?

 

教育長:「ふるさと」を気づかせてくれた天見の八幡さん、これが最初やった。あの日以来、「湯立て神事」と「綱かけ神事」はお礼の意味を込めて、毎年行かせてもらっているんよね。

 

流谷八幡神社

 

和田栄 先生

河内長野市在住。和泉市や河内長野市の小中学校で19年間の教育現場の後、府の教育委員会を経て、2009年に河内長野市教育委員会教育長に就任。趣味は茶道(宗及)表千家、書道、空手道。