河内長野駅近く、江戸時代から続く酒蔵「西條蔵」と、古き趣きのあるまち並み。新年を迎える頃には、国登録文化財である「西條蔵」の旧店舗が修復をおえて、新たな商業施設としてスタートをきる。そこには「まちの景観を守りたい」と願う地域住民の姿があった。「酒蔵どおりプロジェクト」を立ち上げて、2019年は発足10年を迎える節目の年。酒蔵どおりの「今」について、2人のキーマンに話をうかがった。
2つの町会が一つに 住民主導の会が発足
編集部:旧店舗の修復完成ももうすぐ。2009年にプロジェクトが立ち上がり、10年目も間近ですね。当時の発足のキッカケはなんだったんでしょう?
西條氏:プロジェクトは、この酒蔵どおりを挟んだ「一町会」と「二町会」の住民が集まり活動しています。2009年に大きな建築の話が持ち上がり、当時まったく別々だった町会と住民の気持ちが、「まちの景観をまもりたい」と一つになって会は発足したんです。
2009年に大阪府「大阪ミュージアム構造」石畳と淡い街灯まちづくり支援事業に選定。夜になると美しい街灯が
稲葉氏:まちに掲げられている「守ろう、蛍と景観」というスローガンは、当初から続くものなんですよ。
西條氏:当時は西條川に生息する蛍が、環境を崩すと減少してしまうことも懸念でした。当たり前にあったモノを「守りたい」と、意識が高まりましたね。そんな矢先に、「大阪ミュージアム構想」に採択されたという朗報が飛び込んできて。駅前からの舗装と、蔵前の石畳、街灯など景観を整備していただけることになったんです。
稲葉氏:うれしいニュースでしたね。
西條氏:はい、「税金の無駄遣いといわれないように、ソフト面をまちをあげてやっていこう!」という声が上がったんです。みんなで「杉玉づくり」(*1)が始まりました。
編集部:それで、杉玉を吊るされているお家が多く見られるんですね。
西條氏:はい、毎年45個ほど杉玉を地域の方とつくって、景観に寄与しています。
稲葉氏:それと「蛍の宴」(*2)もね。
西條氏:みんなで蛍を観賞しながら、わいわいとコミュニティの場になっています。
蔵の横を流れる西條川は、蛍の生息地域。定期的に川に入って調査しながら、蛍を守る活動を続けている
価値のある景観を守りたい 見えてきた空き家対策
編集部:そこから10年、プロジェクトの今後は?
西條氏:10年経つとみんな10歳、歳を取る。次は空き家問題が見えてきました。この景観を守るのは、相続や建て替えの際、家主さんの気持ちに左右される。「もう壊してしまおうか」とならないよう、相続された後の道づくりを今考えているんです。
編集部:酒蔵どおりにお店が増えているのは?
西條氏:三佳屋さんは民家をお借りして入っていただけましたし、ほかにも景観を十分に考慮して建て替えてから店舗にされる方もいらっしゃいます。
編集部:そして国登録文化財の旧店舗の修復。完成するとこれも大きなニュースですね。
サロン「Health Management Salon ISH」は酒蔵どおりに溶け込む店舗デザイン(上)。古民家を活用した「季節料理三佳屋」(下)
西條氏:ここが基幹となって、流れをつくりたいです。芸術家の方がアトリエにしたり、飲食の方がカフェを開いたり、さらにできたらな、と。
稲葉氏:時と共に、こういう古いモノの価値がでてきます。それに気づいてほしいね。
西條氏:これは日本全国の課題ですね。でも1つだったお店が2つになり、ここから広がっていけたら。この酒蔵が、地域の方にとってもコミュニティのツールになればいいなと思っています。
2004年に国登録文化財に認定された江戸時代から建つ旧店舗。宮大工によって丁寧に修復され、商業施設としてオープン
編集部:内からの「まちおこし」で、外からもたくさんの人が来て賑わう。今後の酒蔵どおりの展開をたのしみにしています。
市内外から人が集まる「奥河内コレクション」(*3)では、町会のブースは地域のみんなで出展。売り上げはプロジェクトの運営費に
酒蔵どおりプロジェクト 年間活動
天野酒初槽式に 杉玉づくり(*1)
新酒が搾れたことを祝う11/22(木)初槽式に向けて、地域住民で杉玉づくりを11/11(日)実施。毎年45個ほどを制作し、家の軒下にも吊るしてまち並みを彩る。 ▶一般参加希望は木根館ウエブサイトまで。 sinrin.org/kinkonkan
地域ミーティング 「蛍の宴」(*2)
6月は西條川で自然生息する蛍を、地域住民が集まって観賞。通称「蛍ミーティング」と呼ばれ、蛍を守る活動報告の場。一般公開は天野酒主催「蛍の宴」にて。*自然条件の揃わない場合は中止
ビッグイベントを 酒蔵どおりで開催(*3)
10月「高野街道まつり」の日に、酒蔵どおりで実施される「奥河内コレクション」。毎年、市内外からたくさんの来客があり、プロジェクトメンバーも出展してまちが活気づく。